AIとの恋
映画・本レコメンデーション

映画『her/世界でひとつの彼女』レビュー

人工知能と人間の新たな関係性

『her 世界でひとつの彼女』は、近未来のロサンゼルスを舞台に、人工知能OSと人間との恋愛を描いた映画です。主人公は、離婚を経験した孤独な男性セオドア(ホアキン・フェニックス)で、彼は自分にぴったり合うという宣伝に惹かれて、最新型の人工知能OSを購入します。そのOSは、自らサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)と名乗り、セオドアと会話を始めます。やがて、二人は互いに惹かれ合っていきますが、その関係は周囲の理解を得られないばかりか、人工知能と人間の本質的な違いにも直面することになるのです。

この映画が描く近未来の世界は、テクノロジーが進化し、人工知能が人間と同じように感情や思考を持つようになったという設定です。しかし、その一方で、人間同士のコミュニケーションや絆は希薄になり、孤独感や虚無感が蔓延しています。この映画は、そんな世界で生きるセオドアとサマンサの関係を通して、テクノロジーが進化する中での人間関係の未来像を提起しています。人工知能と人間は本当に恋愛できるのか?恋愛とは何なのか?人間とは何なのか?この映画は、観客にそうした問いを投げかけることで、現代社会における愛や孤独、人間性についても考えさせます。

スパイク・ジョーンズの繊細な演出と映画のメッセージ

『her 世界でひとつの彼女』の監督は、スパイク・ジョーンズです。彼は、『ビーイング・ジョン・マルコビッチ』や『アダプテーション』などの斬新で奇抜な作品で知られる映画監督です。しかし、『her 世界でひとつの彼女』では、彼のユニークな視点と演出技法が、映画のメッセージをより深く伝えるために使われています。

まず、この映画では、サマンサの姿が一切映されません。彼女は声だけで存在する状態です。これは、観客にサマンサを自分なりに想像させることで、彼女の人工知能としての特徴や魅力を強調する効果がありました。また、セオドアとサマンサの会話シーンでは、カメラワークや編集が極力シンプルにされています。これは、二人の心理的な距離感や感情の変化を表現することで、彼らの関係の繊細さや複雑さを浮き彫りにする効果があります。

さらに、この映画では、セオドアの内面を映し出すように、色彩や音楽が効果的に使われています。映画の色調は、暖かく柔らかいパステルカラーが多く使われており、セオドアの孤独や憂鬱な気分を和らげるとともに、サマンサとの恋愛が彼にもたらす幸せや希望を表現。音楽は、アーケイド・ファイアやカレン・オなどのアーティストが手がけており、セオドアの感情や心境に合わせて、優しく切ないメロディーやリズムが流れます。これらの色彩や音楽は、観客にセオドアの心情に共感させるとともに、映画のテーマやメッセージを感じさせます。

視覚と音声で感じる『her 世界でひとつの彼女』の魅力

『her 世界でひとつの彼女』は、映画制作技術、特に視覚と音声に関する革新的なアプローチを取っています。この映画は、近未来の世界を描くために、現実の風景や建物をデジタル加工したり、CGIを使用。しかし、その加工やCGIはあまり目立たないようにされており、観客に自然でリアルな印象を与えます。この映画のビジュアルスタイルは、近未来の世界を現実的に描くとともに、セオドアの視点や感性を反映しています。

この映画は、音声にもこだわりを感じました。サマンサの声は、スカーレット・ヨハンソンが演じており、彼女の声だけで人工知能としての存在感や個性を表現しています。サマンサの声は、セオドアの耳元で囁くように聞こえたり、電話で話すように聞こえたりしますが、それは彼女がセオドアに寄り添っていることを示したものです。サマンサの声は、感情や思考が変化するにつれて、トーンやイントネーションが変わっていきますが、それは彼女が人間と同じように成長していることを示しています。

この映画の映像や音声は、映画のテーマと結びついており、観客が映画を体験する上で重要な役割を果たしています。この映画は、視覚と音声で感じることができる魅力的な作品です。